法律コラム

賃借物件を解約すると「相続放棄」はできなくなるのか【実際にあった相続相談⑥】

賃借物件を解約すると「相続放棄」はできなくなるのか【実際にあった相続相談⑥】

2025.03.03

弁護士の青山です。
  
今回は身近なところで起こっている「相続」に関する法律コラムです。
  
具体的事例をもとに、相続に関わる素朴な疑問に答えてまいります。
 
賃貸アパートでひとり暮らしをしていた被相続人Aさんが亡くなりました。
 
相続人であるBさんは相続放棄する予定ですが、Aさんが居住していたアパートの賃料が発生し続けているため、ひとまず賃貸借契約を解約したいと考えています。
 
アパートの賃貸借契約を解約することは、相続放棄をする上で問題はないのでしょうか。

相続放棄とは?相続するか否かは選択できる権利

そもそも相続放棄とはどういう意味なのでしょうか?
 
相続人は、一定の期間(熟慮期間:被相続人の死亡と、自分がその相続人であることを知ってから3か月)内に
 
①相続財産の一切を承継する
②一切を放棄する
③相続した資産の範囲内で債務等の責任を負う
 
このいずれかを決めることができます。

相続放棄の方法や効果とは

相続放棄(民法938条)は上記②を指します。
   
放棄をする相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所にその旨の申述をする必要があります(民法915条1項)。
    
被相続人の遺産に多額の負債(借金)があり、これを承継したくない場合や、遺産分割に関与したくない場合などに選択されることがあります。
    
相続放棄をした相続人は、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものと扱われます(民法939条)。
   
このことから、相続放棄をした相続人に直系卑属(子や孫など)がいる場合にも、放棄者を代襲して相続することはありません。

相続放棄をすることが、許されない場合

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であれば原則可能です。
 
しかし、同期間内であっても、下記の一定の行為をした場合には相続放棄ができなくなります(民法921条)。
 
①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
 
②相続放棄をすることができる期間に、限定承認(※)又は相続放棄をしなかったとき
 
③限定承認又は相続放棄後に、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
 
 ※限定承認とは、相続により得たプラスの財産の限度においてのみ被相続人の借金などを引き受けること。例えば、相続財産が100万円の現金と200万円の借金である場合には、100万円の現金と100万円の借金を相続することになります。
 
上記の事例において、相続人Bさんがアパートの賃貸借契約を解約することは、上記①「相続財産の全部または一部を処分したとき」に該当し、相続放棄をすることができなくなるのでしょうか。

「賃貸借契約を解約する」と相続放棄できなくなる可能性がある

アパートの賃貸借契約の解約は、債務の増加を防止する行為のため「処分」ではなく、保存行為(相続財産の減少を防ぐための行為)であるとの見方も可能です。
 
しかしながら、賃貸借契約の解約により賃借権を消滅させるという効果が生じることからすれば、「処分」と評価される可能性もあります。
 
そうしますと、アパート解約後に相続放棄をすることはできなくなり、仮に被相続人に借金がある場合には同債務を負担しなければなりません。
 
このことから、相続放棄をするか決めるまでは賃貸借契約の解約を行うことは控えるべきです。

大家から賃貸借契約の解約がされた場合

相続人からではなく、大家から賃貸借契約の解約がされ、明渡しの請求に応じた場合にも相続放棄はできなくなるのでしょうか。
 
この場合には、弁済期の到来した債務の履行として保存行為となりますので、相続放棄に影響はありません。
  
しかし、明渡しの際に、遺品の処分を行うと処分行為とされる可能性があることから注意が必要です。

滞納家賃の支払い

相続人が賃貸していたアパートに滞納家賃があった場合に、相続財産から滞納家賃を支払うと相続財産を「処分」したとみなされますので、こちらもご留意ください。
 
なお、相続人がアパートの連帯保証人となっていた場合には、相続放棄とは関係なく支払義務を負います。
 
それぞれの状況に応じて、適切な判断が必要となってくる相続。相続放棄を含むご相続手続きに関してお困りの際は、どうぞお気軽にご相談ください。 

相続に関するお困りごとは弊所へご相談ください

弊所では弁護士事務所には珍しい、オンライン予約システムを導入しております。
   
手軽にご希望の相談メニューとご都合の良いお時間帯をお選びいただけると好評です。
         
こちらのページにあります「ご予約・お問い合わせはこちら」よりご予約ください。
          
もちろん、お電話でもご予約承っております。お電話での弁護士へのご相談は…℡03-3709-6605
法律的な見解はもちろんですが、さらにその一歩、相談者さまの人生に寄り添った形でお話させていただいております。
        
ご相談がありましたら、お気軽に当事務所までご連絡ください。

ご予約・お問い合わせ

「ご相談者様の明日の幸せのために」
「人生に寄り添った仕事がしたい」
そんな熱い思いを胸に全力を尽くして取り組んでおりますので、
まずはお気軽にご相談くださいませ。