法律コラム
「遺言書の検認」を怠るとどうなるのか【実際にあった相続相談】
弁護士の青山です。
今回は身近なところで起こっている「相続」に関する法律コラムです。
具体的事例をもとに、相続に関わる素朴な疑問にお答致します。
相続人Xさんは、父親である被相続人Aさんを亡くしました。
Aさんは生前、Xさんに遺言書を託しました。遺言書の内容は、遺産のすべてをXさんに相続させるというものでした。
Xさんは、「すべて私に譲るという内容だから、何か手続きをする必要もないだろう」と考え、Aさんが亡くなった後も遺言書を手元に保管していました。
そうしたところ、他の相続人であるXさんの妹Yさんから下記の主張がされました。
「Xは父Aの遺言書の内容を明らかにせず、検認の申立てもしない。これは遺言書の隠匿で、相続欠格事由になるから、Xを除外して遺産分割協議を行う」
さて、こういった場合は遺言書の検認申立てをしないと、Aさんは相続人となることができないのでしょうか。
遺言書の検認とは
遺言書の検認とは、遺言書の存在と内容を確認し、遺言書の偽造や変造を防ぎ、遺言書を保全するための手続です。
しかし、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。
検認の審判によって遺言書の現状が確定することから、検認後に遺言書原本が紛失しても、検認調書謄本により遺言執行が可能となります。
遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して検認を受けなければなりません(民法1004条1項本文)。
一方で、公正証書遺言や法務局保管の「自筆証書遺言」の場合には、検認は不要です(同法1004条2項、法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。
遺言書を隠匿するとどうなるのか
民法は、「相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者」は相続人となることができないと規定しています(民法891条5号)。
「隠匿」とは、遺言者が作成した遺言書の存在を知りながら、他の相続人に知らせないことをいいます。
では、上記の例において、Xさんは遺言書の存在を知りながら他の相続人Yに知らせていなかったのですから、遺言書を「隠匿」したことになるのでしょうか。
裁判例から見ていきましょう。
裁判例①「隠匿」かどうかは各事案ごとの検討が必要
最高裁平成9年1月28日判決は、遺言書を破棄又は隠匿した場合において、「相続人の右行為が相続に関して不当な利益を目的とするものでなかったときは、右相続人は、民法891条5号所定の相続欠格者には当たらないものと解するのが相当である」としました。
民法891条5号は、遺言に関して著しく不当な干渉をした相続人の資格を失わせることを目的としています。
同判例は、遺言書の破棄又は隠匿が不当な利益を目的とするものでないときは、著しく不当な干渉とはいえないことから、このような場合にまで相続人の資格を失わせるという厳しい制裁を科すことは同号の目的に沿わないとの考えを示しました。
遺言書の内容が相続人に有利なものである場合には、通常は、検認申立てをしないことをもって同相続人に不当な利益目的を認めることはできないことから、同相続人は相続欠格とはならないと考えられます。
しかし、たとえ隠匿した者に有利な内容の遺言書であっても、遺留減殺請求を受けることをおそれて、相続開始後2年余りにわたって他の共同相続人に遺言書の存在を秘匿していたケースでは、遺言書の「隠匿」に当たるとして、相続欠格に該当すると判断された裁判例もあります(東京高判昭和45年3月17日)。
上記Xさんにおいても、たとえXさんに有利な遺言書であったとしても、そのことだけで当然に相続欠格に該当しないとは言えません。
検認をしないことが相続欠格に該当するかは、事案ごとに、個別的に検討する必要があることから注意が必要です。
裁判例②公正証書遺言を破棄or隠匿した場合
では、公正証書遺言を破棄又は隠匿した場合はどうでしょうか。
公正証書遺言の原本は、公証役場に保管されますので、破棄や隠匿といった問題は生じないようにも思えます。
大阪高判昭和61年1月14日は、「本件遺言書は公正証書遺言であって、その原本は公証人役場に保管され、遺言書作成に当たって証人として立ち会いその存在を知っている〇〇弁護士が遺言執行者として指定されているのであるから、被控訴人において本件遺言書の存在を他の相続人に公表しないことをもって遺言書の発見を妨げるような状態においたとはいい難く、また、被控訴人は本件土地、建物を自己に遺贈するという●●の最終意思を本件遺産分割協議を成立させることにより実現しようとするものにほかならないのであるから、被控訴人が右分割協議に当たり本件遺言書の存在を他の相続人に公表しなかったことにつき、相続法上有利となり又は不利になることを妨げる意思に出たものとも認め難い。したがって、…相続欠格事由としての遺言書の隠匿には当たらない」としています。
東京高判平成3年12月24日においても、「その原本は公証人役場に保管されており、かつ、被控訴人以外の控訴人に身近な者の中にも、本件遺言書の存在及びその内容を知っている者が複数いたのであるから、被控訴人が控訴人に積極的に告知しない限り、本件遺言書の存在及び内容が明らかにならないような状況にはなかったこと及び被控訴人自身、相続人の一人である〇〇には、本件遺言書を示して、その存在及びその内容を知らせたことを考慮すると、被控訴人が、本件遺言書が存在することを相続人の一人である控訴人に告げなかったことなどの右認定の経緯から民法891条5号所定の遺言書の隠匿に該当する事実があったものと認めることは困難である。」とされました。
公正証書遺言については、現在では遺言検索システムも導入されており、隠匿の問題はより少なくなるものと考えられます。
しかし、上記裁判例からすれば、公正証書遺言であっても当然に隠匿の問題が生じないとはいえず、遺言書の内容が隠匿した者に有利・不利な内容であるか、他の相続人が遺言書の存在や内容を知っていたか、遺言執行者が指定されているか等の事情を勘案して、隠匿にあたるかを検討する必要があることになります。
検認をしないことにより生じる制裁・不都合
検認をしないと、上述のとおり隠匿にあたるリスクもあることに加えて、下記のような制裁や不都合もあります。
まず、検認を怠り、検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処されます(民法1005条)。
また、不動産登記実務上、検認を経ていない自筆証書遺言では不動産の相続・遺贈の手続は行うことはできません。
令和6年4月1日からは相続登記が義務化もされたところであり、期限までに正当な理由なく相続登記を行わなかった場合は、10万円以下の過料に処せられる可能性もあります(相続登記の義務化に関する神山弁護士のコラム参照)
預貯金の名義変更や解約等の手続においても、金融機関では検認済みの遺言書原本や検認調書の添付を求められることが一般的です。
このことから、検認手続を経ずに相続手続きを行うことは難しいでしょう。
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