法律コラム
葬儀費用の支出後に「相続放棄」はできるのか【実際にあった相続相談⑤】
弁護士の青山です。
今回は身近なところで起こっている「相続」に関する法律コラムです。
具体的事例をもとに、相続に関わる素朴な疑問に答えてまいります。
親であるAさんを亡くしたBさん。
Bさんは、葬儀費用をAさんの相続財産である預金から支出しました。
その後、Aさんには多額の借金があることが判明したので、相続放棄をしようと考えていますが可能でしょうか。
相続放棄とは
そもそも「相続するか否か」は選択できるものだということをご存知ですか?
相続人は、一定の期間(熟慮期間:被相続人の死亡と、自分がその相続人であることを知ってから3か月)内に、
①相続財産の一切を承継する
②一切を放棄する
③相続した資産の範囲内で債務等の責任を負う
これらを決めることができます。
相続放棄の方法や効果
相続放棄(民法938条)は上記②を指します。
放棄をする相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所にその旨の申述をする必要があります(民法915条1項)。
被相続人の遺産に多額の負債(借金)があり、これを承継したくない場合や、遺産分割に関与したくない場合などに選択されることがあります。
相続放棄をした相続人は、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものと扱われます(民法939条)。
このことから、相続放棄をした相続人に直系卑属(子や孫など)がいる場合にも、放棄者を代襲して相続することはありません。
相続放棄をすることが「許されない場合」もある
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内であれば原則可能です。
しかし、同期間内であっても、下記の一定の行為をした場合には相続放棄ができなくなります(民法921条)。
①相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
②相続放棄をすることができる期間に、限定承認又は相続放棄をしなかったとき
③限定承認又は相続放棄後に、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
上記事例において、Bさんは、遺産である預金を葬儀費用に充てています。
この行為は上記①「相続財産の全部または一部を処分したとき」に該当し、相続放棄をすることができなくなるのでしょうか。
裁判例はどのように考えているのか。「相続放棄」を認めた事例
被相続人の財産が残されていた場合に、被相続人がこれを葬儀費用等に支出することは相続人としてやむを得ないこともあります。
このことから、裁判例にはかような場合にも、相続放棄を認めたものがあります。
①大阪高決昭和54年3月22日
「抗告人らは右所持金に自己の所持金を加えた金員をもつて、前示のとおり遺族として当然なすべき被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払に充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、相続人が相続財産の存在を知つたとか、債務承継の意思を明確に表明したものとはいえないし、民法921条1号所定の『相続財産の一部を処分した』場合に該るものともいえないのであって、右のような事実によつて抗告人が相続の単純承認をしたものと擬制することはできない。」
②大阪高決平成14年7月3日
「葬儀の後に仏壇や墓石を購入することは、葬儀費用の支払とはやや趣を異にする面があるが…我が国の通常の慣例であり、預貯金等の被相続人の財産が残された場合で、相続債務があることが分からない場合に、遺族がこれを利用することも自然な行動である。
そして、抗告人らが購入した仏壇及び墓石は、いずれも社会的にみて不相当に高額のものとも断定できない上、抗告人らが香典及び本件貯金からこれらの購入費用を支出したが不足したため、一部は自己負担したものである。
これらの事実に、葬儀費用に関して先に述べたところと併せ考えると、抗告人らが本件貯金を解約し、その一部を仏壇及び墓石の購入費用の一部に充てた行為が、明白に法定単純承認たる「相続財産の処分」(民法921条1号)に当たるとは断定できないというべき」
しかしながら、上述のように、上記裁判例は、相続債務があることが分からない場合であったり、購入した仏壇及び墓石の費用が高額でないこと等の個別事情が勘案されたうえでの判断といえます。
このことから、葬儀費用等であれば相続財産から支出することが、必ずしも「相続財産の処分」にあたらないとは言えません。特に、上記事例のように多額の債務があることを知ったうえで、高額な葬儀費用を支出する場合などには相続放棄が認められない可能性もあります。
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