法律コラム

賃貸における「残置物処理」の基本的流れと注意点【弁護士解説】

賃貸における「残置物処理」の基本的流れと注意点【弁護士解説】

2025.02.04

こんにちは、弁護士の藤間です。
今日は賃貸契約間のトラブルでご相談が増えている「残置物(ざんちぶつ)処理」について解説している記事の後編です。

賃貸借契約が終了し、賃借人(借主)が退去したにもかかわらず、室内に家具・家電・衣類・生活雑貨などの「残置物」が置き去りにされているケースは少なくありません。
 
この残置物を巡ってはトラブルが発生する可能性もあり、所有者の同意なく処分すると「違法行為」として損害賠償請求を受けるリスクがある点です。
 
前編では国土交通省が出している賃貸住宅に関するガイドラインの活用について解説いたしました。
(前編はこちら
  
後編では残置物処理の基本的な流れについて、弁護士が解説いたします。

残置物処理の基本的な流れについて

残置物が見つかったら。賃貸のオーナーとしてどのような対応に注意すべきなのでしょうか。
 
①所有者に対する通知の重要性
まずは、残置物があることを確認したら、速やかに元借主(またはその代理人)へ連絡し、引き取りを求めることが大切です。
  
連絡方法は口頭だけでなく、書面(内容証明郵便など)の形で「いつまでに取りに来ない場合は処分する」という事前通知を行うのが望ましいです。
  
これにより、後々「聞いていなかった」と言い逃れされるリスクを低減できます。
 
②一定期間の保管
国交省のガイドラインや判例の考え方によれば、通知後は一定期間(具体的には数週間から1~2か月程度を目安)保管する必要があるとされています。
 
その間に所有者から引き取りの意思表示があれば、引き取りの機会を提供することになります。
 
③所有者の同意または不在時の処分
•所有者から「処分して構わない」との同意を得た場合
書面で残置物処分の同意書をもらうのが理想的です。同意書があれば、オーナー側で適切に処分しても損害賠償責任に問われる可能性は極めて低くなります。
 
•所有者が不明・連絡がつかない場合
可能な限りの通知措置を講じたうえで、一定期間の保管が経過しても引き取りがない場合、やむを得ず処分に踏み切ることになります。その際には、後で「不当に処分された」と言われないよう、処分に至る経緯や保管状況を記録化しておくのが望ましいでしょう。

処分費用の負担はどこがもつのか

残置物の処分にかかる費用は、本来、所有者(元借主)の負担であると考えられます。
 
しかし、実際に費用を回収できるかは状況次第です。
 
事前に預かり保証金や敷金があれば、そこから控除できる場合もあります。
 
一方で、敷金精算がすでに済んでしまった、あるいは保証金制度を利用していない、という場合は、オーナー側が実質的な費用負担を免れないことも多々あります。

実務上よくある、残置物トラブル三大事例「高額」「所有者不明」「遺品」

これまでご相談を受けてきた中で、よくあるトラブルをご紹介します。
 
1.高額品が含まれるケース
骨とう品やブランド品、金銭的価値の高い電子機器などが残置物に含まれる場合は特に慎重な対応が必要です。
万が一それらを処分してしまうと、高額な損害賠償が認められるリスクが高まります。
通知や保管の手続きをより厳格に行い、弁護士に相談して慎重に進めることが推奨されます。
  
2.所有者不明・相続がからむケース
賃借人が亡くなってしまった場合や、所在不明・連絡不通の場合には、相続人や関係者が所有権を引き継いでいる可能性があります。
そのため、残置物が遺品としての性格をもつならば、相続人の連絡先を調べ、引き取りの可否を尋ねる必要があるでしょう。
もし相続人も不明な場合には、法的手続き(相続財産管理人の選任申立てなど)が求められることもあります。
  
3.大量のゴミや粗大ゴミの残置
生活ごみや粗大ゴミが大量に残された場合、処分だけでも大きな負担となります。
衛生問題や害虫の発生リスクも考慮しなければなりません。
自治体の指定する粗大ゴミ収集や産業廃棄物処理業者に依頼する費用もかさむため、賃貸借契約の段階で「残置物処分費用は借主負担」と明記しておくことが望ましいです。

国交省ガイドラインを踏まえた契約書作成のポイント

国交省のガイドラインでも強調されているように、残置物を巡るトラブルを予防するためには「契約書の段階で事前に処理方法を取り決めておくこと」が極めて重要です。
 
具体的には、以下のような点を特約に盛り込むケースが多いです。
 
1.残置物があった場合の通知手順
○日以内に連絡がない場合は処分してもよい、など具体的な期限を設定。

2.処分費用の負担
残置物の処分にかかる一切の費用は借主負担とする旨。

3.保管義務の範囲や期間
保管場所や保管期間を明記し、費用が発生する場合は借主負担とする。

4.貸主が処分権限を行使する条件
内容証明郵便等での通知実施、保管期限が経過しても連絡がない場合など、処分に踏み切る明確な条件。

条文例(イメージ)
第○条(残置物の処分)
1.賃借人は、本契約終了に伴う明渡しの際、自己の所有に属する動産等を全て搬出するものとする。

2.賃借人が前項の義務を履行しない場合、貸主は賃借人に対し、書面等で通知のうえ一定期間保管し、その期間内に賃借人からの引取りがないときは、当該動産等を貸主の裁量で処分することができる。

3.前項の処分に要する費用は賃借人の負担とし、貸主は賃借人に対し、当該費用を請求することができる。なお、保管費用も同様とする。

4.賃借人は、貸主が本条に基づき処分した動産について損害賠償請求その他一切の異議を述べない。
 
上記はあくまで一例であり、実際に契約書へ盛り込むにあたっては、個々の事情や法令、地方自治体のルールなどを勘案のうえ、専門家に確認してもらうことが望ましいです。

弁護士が見る残置物処理の注意点①証拠保全の重要性

まず、残置物を処分する際には、後日トラブルが発生した場合に備えて、「通知の事実」「保管場所や期間」「処分の経緯」などを証拠として残しておくことが重要です。具体的には以下のような方法が考えられます。
  
•内容証明郵便での通知
•メールやLINEなどでのやり取り(スクリーンショット含む)
•処分前後の写真や動画
•保管場所の契約書や領収書等
 
こうした証拠を体系的に残しておくことで、万一所有者から損害賠償請求を受けても、適切に反論・立証することができます。

弁護士が見る残置物処理の注意点②交渉と裁判手続との関係

所有者との交渉対応については、所有者が見つかり、処分について同意を得る場合にも、口頭のやり取りだけでは後で「そんな話は聞いていない」と反故にされるリスクがあります。
  
必ず書面(合意書・覚書)などで明文化しておきましょう。弁護士としては、できる限り詳細な合意内容を取り決め、署名捺印をもらうよう助言することが多いです。
  
また、残置物の所有者が不明、あるいは借主・相続人と話し合いがつかない場合は、法的手続きが不可避となることがあります。
  
特に金銭的価値のある動産の場合、簡易裁判所や地方裁判所での民事訴訟に発展することもあり得ます。
  
弁護士を通じた交渉・調停などの手段も視野に入れる必要があるでしょう。 

国交省ガイドラインと適切な対応の実践がトラブルを防ぐ

トラブルを防ぐための4つのポイントをお伝えします。

1.ガイドラインの意義
国土交通省のガイドラインや賃貸住宅標準契約書は、残置物処理に関する紛争を未然に防ぐための道標として重要な役割を果たします。所有者の同意を得ない無断処分は違法行為に該当するリスクがあることを、改めて認識しておきましょう。
 
2.契約書での事前対策が肝心
賃貸借契約の締結時点で、残置物処理に関する特約を明確に記載しておくことで、トラブル発生時のリスクを大幅に低減できます。処分費用や保管費用の負担、通知手続の方法と期限、所有者と連絡が取れない場合の対応などを具体的に定めておくと安心です。
 
3.実務対応:通知・保管・処分のプロセスをきちんと踏む
残置物に気づいたら、まず所有者に連絡・通知し、一定期間保管するのが基本的流れです。その後も所有者の同意を取るか、連絡がつかない場合はきちんと記録を残したうえで処分に移行するのが望ましいです。
 
4.トラブルの際は専門家に相談を
高額品や遺品が含まれるケース、相続人不明などの事案では、一般的なルールを超えた手続きや慎重な対応が求められます。早期に弁護士や専門業者へ相談し、適切な法的手段や調停・訴訟を見据えた進め方を検討することが大切です。

事前の取り決めと通知・保管の手続きを丁寧に踏むこと

残置物処理は、日常的によくある問題のように見えますが、実は一歩間違うと大きな法的リスクを招く領域です。
  
国交省によるガイドラインや賃貸住宅標準契約書の内容をしっかりと理解し、オーナー・管理会社はもちろん、借主サイドも「退去時の持ち物はすべて持ち出し、必要な場合は処分手続きを確認する」という意識を共有することが求められます。
  
弁護士の立場から強調したいのは、「事前の取り決めと通知・保管の手続きを丁寧に踏む」という点です。
 
これらを怠ると、知らず知らずのうちに法的責任を負うことになりかねません。
 
逆に言えば、契約書やガイドラインを活用して手続きを踏めば、不要なトラブルを回避し、円滑かつ公正な対応が期待できるでしょう。
 
本記事が、残置物処理に悩まれているオーナー・管理会社・借主の皆様の参考となれば幸いです。
 
実際の事案に直面した場合には、ぜひお早めに専門家へご相談いただき、適切な対応を取っていただければと思います。
  
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案に対して法的アドバイスを行うものではありません。
具体的な事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。

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