法律コラム

賃貸事業における「残置物処理」の重要性と法的リスクについて【弁護士解説】

賃貸事業における「残置物処理」の重要性と法的リスクについて【弁護士解説】

2025.01.31

こんにちは、弁護士の藤間です。今日は賃貸契約間のトラブルでご相談が増えている「残置物(ざんちぶつ)」について解説いたします。
 
賃貸借契約が終了し、賃借人(借主)が退去したにもかかわらず、室内に家具・家電・衣類・生活雑貨などの「残置物」が置き去りにされているケースは少なくありません。
 
特に単身者向け物件や、高齢者の方、外国人の方が入居する物件では、何らかの事情で急に退去・帰国などが発生し、処分しきれなかった私物がそのまま残ってしまうことがしばしばあります。
 
この残置物を巡っては、放置すると衛生上の問題や、次の入居者が決まらないなどの機会損失、さらには処分費用や手間をめぐるトラブルが発生する可能性もあります。
 
さらに厄介なのは、所有者の同意なく処分すると「違法行為」として損害賠償請求を受けるリスクがある点です。
 
こうした背景から、国土交通省は賃貸住宅に関するガイドラインの中で、残置物処理に関する留意事項や標準契約書の活用を促しています。
 
前後編でお伝えします。

国交省ガイドラインの狙い

国土交通省のウェブサイトでは、賃貸借契約に関する標準契約書や、オーナー・管理会社・借主それぞれに役立つ情報を公開しています。
 
その中には、残置物処理をめぐる基本的な考え方や注意すべき手続きが整理されており、賃貸借契約書の作成にあたって留意すべきポイントがまとめられています。(残置物処理に関するモデル契約条項
 
国交省のこのような情報提供は、トラブル防止という観点のみならず、賃貸住宅市場の健全化を図る目的も含まれています。
 
残置物の処理に関して明確なルールがないまま、当事者同士の認識が食い違うことは珍しくなく、結果として紛争が長期化・複雑化するおそれがあるからです。

残置物とは? 民法上の「所有権」の考え方と実務上の問題

残置物とは、賃貸物件の明け渡し(退去)後に、本来であれば借主が持ち出すべき私物・動産が置き去りにされているものをいいます。

一般的には家具や家電、衣類などの生活用品が多いですが、場合によっては高額な美術品や証券・印鑑・現金などが含まれるケースもあります。

最も重要なポイントは、これら残置物には依然として「元の所有者の所有権が存在する」という点です。

仮に賃貸借契約が終了していたとしても、賃貸人(オーナー)に所有権が移転するわけではありません。

つまり、他人の所有物を勝手に処分すれば、民事上も刑事上も問題となりうるのです。

「残置物」があると、実務上どんな課題があるのか

実務では、残置物があると次のような課題が発生します。
 
•物件の再募集に支障が出る:室内に大型家具やゴミが山積みの場合、内見に支障が出るばかりか衛生面でも問題が生じる。
 
•処分費用や保管費用:粗大ゴミ・リサイクル家電等の処分や、所有者不明の場合の長期保管など、オーナー・管理会社の負担増となりやすい。
  
•所有者による損害賠償請求リスク:勝手に捨てた場合、所有者から「違法に処分された」として損害賠償を請求される可能性がある。

国交省のガイドラインから見る「賃貸住宅標準契約書」との関わり

ガイドラインにおける残置物の考え方について見てみましょう。
 
国土交通省が公表している賃貸住宅標準契約書や各種ガイドラインでは、トラブルの多い残置物に関して、以下のような内容が盛り込まれています。
 
•賃貸借契約書への特約条項:退去時に残置物があった場合、貸主がどのような手続きを経て処分できるのか、費用はどちらが負担するのかなどをあらかじめ明記することが推奨されている。
 
•事前の通知と保管措置の必要性:残置物をすぐに処分するのではなく、所有者に対する通知や一定期間の保管が必要となる点を明確化。
 
•勝手な処分の禁止:所有者(元借主)の権利を尊重し、無断で処分すると違法になり得る旨を注意喚起している。

「賃貸住宅標準契約書」における「残置物特約」の位置づけ

国交省が示している「賃貸住宅標準契約書」は、賃貸借契約の基本的な条項を網羅した、いわばモデルケースの契約書です。
 
この標準契約書には、「残置物があった場合の処理方法」を示す条文例が含まれており、これを参考に各事業者やオーナーは自社の契約書を作成・改訂することで、残置物処理に関するリスクヘッジを図ることができます。
 
ただし、あくまで「標準契約書」であって、法的拘束力をもつわけではありません。実際には各地域・各物件の特性に応じて、文言をアレンジすることが一般的です。

残置物処理を巡る法的リスク「自力救済の原則禁止」と「不法行為責任」の可能性

我が国の民事法制では「自力救済の禁止」が原則とされています。
 
これは「権利侵害を受けた場合でも、公的機関を通じて救済を求めなければならず、自ら物理的に実力行使してはならない」という考え方です。
 
残置物はあくまで他人の所有物であり、仮に契約が終了してもオーナーの自由にできるわけではありません。勝手に廃棄すると、所有権侵害にあたる可能性があります。

また、刑事上のリスクが伴います。
 
他人の物を勝手に廃棄・売却する行為は、刑法上の「横領罪」や「器物損壊罪」が成立する可能性があります。
 
もっとも、実際に刑事事件として扱われるかはケースバイケースですが、残置物が高額品だったり、所有者とのトラブルが激化すると、刑事告訴される恐れがゼロとはいえません。

民事上の損害賠償のリスクもあり

さらに、民事上の損害賠償リスクもあります。
 
裁判例でも、勝手に借主の残置物を処分してしまい、後日、借主側から「所有物を勝手に捨てられた」「まだ取りに行くつもりだった」として損害賠償が請求されたケースは少なくありません。
 
たとえ実質的に不要物だったとしても、処分手続きを踏まないと違法になる可能性があるため要注意です。
 
次回は残留物処理の具体的な流れについて解説いたします。
 

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