法律コラム

遺言書で相続人を「廃除」することはできるのか【実際にあった相続相談③】

遺言書で相続人を「廃除」することはできるのか【実際にあった相続相談③】

2024.08.29

弁護士の青山です。
今回は身近なところで起こっている「相続」に関する法律コラムです。
具体的事例をもとに、相続に関わる素朴な疑問にお答致します。
 
Xには、法定相続人である子のYがいます。
XとYとは折り合いが悪く、Yを相続人から廃除したいと考え、遺言書に「Yを推定相続人から廃除する」と記載しました。
この遺言書によって、Yは当然に相続人から廃除されるのでしょうか。

「推定相続人の廃除」が認められるのは3事由

廃除とは、遺留分を有する推定相続人(配偶者や子・上記で言うところのY、直系尊属)に被相続人に対する虐待や侮辱、非行がある場合に、被相続人の意思に基づいて、その者が相続する資格を失わせる制度です(民法892条、893条)。
 
廃除が認められるのは、
①推定相続人に対する被相続人への虐待
②重大な侮辱
③推定相続人にその他の著しい非行があった場合(民法892条)。
 
「虐待」とは、被相続人に対する暴力や耐えがたい精神的な苦痛を与えることであり、「重大な侮辱」とは、被相続人の名誉や感情を著しく害することです。
「著しい非行」とは、虐待や重大な侮辱には該当しないものの、それに類する推定相続人の遺留分を否定することが正当といえる程度の非行です。
具体的には、犯罪行為や服役、遺棄、被相続人の財産の浪費、無断処分、不貞行為、素行不良、長期の音信不通、行方不明等が挙げられます。
 
上記①ないし③に該当するかの判断においては、客観的にみて、相続資格を失わせてもやむを得ない程度に信頼関係が破壊されていることが必要になりますので、一時的な感情にかられた行為であったり、被相続人にも責任の一端があるような場合には、廃除事由が否定される傾向にあるといえます。
 
このことから、上記XとYのように、単に不仲であるだけでは認められない可能性が高いでしょう。
 
廃除された推定相続人は相続資格を失い、被相続人の遺産を相続することはできませんし、遺留分も認められません。
ただし、相続人を廃除すると代襲相続が発生します。
例えば、上記Yに子Zがおり、Yが廃除された場合には、Xからみて孫であるZが代わりに相続することになります。

 

遺言で廃除するの「生前廃除」と「遺言廃除」の2種類

廃除する方法としては、「生前廃除」(民法892条)と「遺言廃除」(民法893条)があります。
 
生前廃除とは、被相続人が生存している間に、家庭裁判所に廃除の申立てをする制度です。

遺言廃除の場合には、被相続人が遺言書に廃除の意向を示し、遺言の効力が生じた後に、遺言執行者が遅滞なく相続開始地を管轄する家庭裁判所に対して廃除の申立てを行うことになります(家事事件手続法188条1項但書)。
 
上記事例は遺言廃除のケースですが、遺言書に廃除の意思が示された場合でも当然に排除されるものではなく、遺言執行者による廃除の申立てがなされ、これを認める審判が確定する必要があることになります。
 
遺言書に遺言執行者が指定されていなければ、家庭裁判所に遺言執行者専任の申立てを行い、選任された遺言執行者により廃除の申立てを行う必要があります(民法1010条参照)。

遺言廃除の注意点としては、生前廃除と異なり、廃除の意思表示が判明したときには被相続人が亡くなっていることから、上記廃除の要件に該当することを証明することが難しくなります。
このことから、遺言書には、
①廃除したいことを明記し(「廃除」の文言が表示されていないと、廃除の意思表示と捉えてもらえないこともあります)
②なぜ廃除したいのかその根拠を記載する
③廃除事由を示す資料(相続人に怪我を負わせられた場合には医師の診断書など)を遺言執行者に引き継ぐ
 
これらの証明する資料を残すことが重要です。

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