法律コラム

遺言書で指定された相続人が、先に亡くなったときには【実際にあった相続相談】

遺言書で指定された相続人が、先に亡くなったときには【実際にあった相続相談】

2024.06.24

弁護士の青山です。
今回は身近なところで起こっている「相続」に関する法律コラムです。
具体的事例をもとに、相続に関わる素朴な疑問に答えてまいります。
   

Aさんは、長女Xと、Xの子である孫Bと同居しています。
自分に尽くしてくれた長女Xに遺産を遺したいと考えたAさん。
「私の財産は全てXに相続させる」旨の遺言書を作成しました。
Aさんは、「もしXに何かあっても、Xが受け取るはずだったものはBが受け取ることになるから大丈夫」と安心していました。
 
実は、Aさんには二女Yもいたのですが、Yとは関係も悪く、Yには相続させたくなかったのです。
しかし、ある日長女Xは亡くなってしまいます。
この場合、Aさんの遺言書によって、孫Bは確実にAさんの財産を相続できるのでしょうか。
それとも、遺言書は無効となるのでしょうか。

孫は相続人になれるのか?「代襲相続」とは

そもそも、孫BはAさんの相続人となることは可能なのでしょうか。

民法には、「代襲相続」という制度が規定されています(民法887条2項、同条3項、889条2項、901条)。
「代襲相続」とは、被相続人の子や兄弟姉妹といった法定相続人が亡くなるなどした場合、その法定相続人の子がかわりに遺産を相続することをいいます。
遺言書が残されていない法定相続の場合には、代襲相続が発生します。 
  
上記のケースにおいて、Aさんが遺言書を作成せずに亡くなった場合には、二女Yと、代襲相続した孫Bが2分の1ずつ、法定相続によって相続することになります。

遺言と「相続させる」旨の遺言

では、「Xに相続させる」旨の遺言があった場合にも、代襲相続が発生し、孫Bが相続することになるのでしょうか。
  
遺言者の死亡以前に、「相続させる」旨の遺言により財産を取得予定であった相続人が亡くなった場合、同遺言が無効となるのか、代襲相続が発生するのか、以前は判例、学説は分かれていました(遺贈については受遺者が先死した場合に遺言の効力が生じない旨明文規定があります(民法994条1項))。
  
最高裁平成23年2月22日判決は、上記と同様の事例において、遺言者が先に亡くなった者の代襲者に遺産を相続させる旨の意思を有していたと見るべき特段の事情のない限り、遺言には代襲相続が適用されないと判断しました。
 
上記のケースの場合、長女Xの孫Bは原則として代襲相続できないことになります。
 
上記判例は、遺言者が代襲者(孫B)に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき「特段の事情」がある場合には、同代襲者に遺産を相続させる余地を残していることから、当然に上記のような遺言が無効となるとも言えません。
  
※被代襲者の死後、被相続人が代襲者も含めた遺産分割方法を指定した遺言を作成しようとしていた事情を考慮して、代襲相続人に相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当とした裁判例として東京高判平成18年6月29日
 
しかし、後々争いを生じさせないためにも、下記における対策を講じることが重要です。

どのような対策を取るべきか?

Aさんが、長女Xが自分より先に亡くなった場合には、「孫Bに財産を取得させたい」と望む場合には、遺言書を新たに作成するか(遺言書は、遺言者が生きている間であれば、何度でも書き直すことができます)、その旨遺言書に明記することが大切です。
  
具体的には、予備的遺言として、「遺言者の死亡以前又は遺言者と同時に、〇〇が死亡した場合には、〇〇(平成〇〇年〇〇月〇〇日生)に相続させる/遺贈する。」等と記載することが可能です。
   
さらに、予備的遺言の相手方が死亡した場合に備えた予備的遺言をすることもできます。
   
たとえば、上記に加えて、「遺言者は、遺言者の死亡以前に長女X及び孫Bが死亡していた場合には、遺産を〇〇に遺贈する。」等記載することになります。
 

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