法律コラム
【ショートストーリー相続編】”隠れ養子”縁組無効訴訟①
法的な解決だけでは終われないドラマがある。
一見、書類だけでは無機質に思える裁判結果にも、その背景には様々な人生模様が隠されているのです。当事務所の水谷が日々扱う事例を取材し、それを元にフィクションでショートストーリーを作成しました。
3話完結となっております。シリーズでお楽しみください。
亡き姉の戸籍に、知らない養子の存在が発覚…
狐につままれる、というのはまさにこういうことか。
姉、幸子が40代で急逝。
姉には離婚した夫との間に子はなく、父母もすでに亡くなっていた。
相続人となるべきは弟である自分。
相続の手続きをすべく、銀行に言われるまま戸籍を集めて窓口に赴いた。
「大変申し上げにくいのですが、お客様には払い戻しをいたしかねます。亡くなったお姉さんには養子さんが存在しますから、その方が相続人になります。」
え…?
そんなはずはない、と窓口で抗議したが、窓口の銀行員も閉口気味。
全く状況が把握できない。これは私では解決できないことだと判断し、その足で知人から以前、紹介されていた世田谷にある法律事務所に相談してみることに。
しっかりと落ち着いた、そして物腰柔らかな女性弁護士が対応してくれた。
「お姉さんである幸子さんは、別れた配偶者の宏さんと婚姻中に、共同養子縁組をされていたようです。お子さんの実母であるこの方は…ご存知ないですか?」
養子の実母として記載されていた名前には、憶えがあるような気がした。宏に愛人がいるようだ、といって姉が嘆いていた女は、こんな名前ではなかったか。
姉は弟である私をとてもよく可愛がってくれていた。5歳差ということもあり面倒見もよく、大人になっても頼れる存在だった。
そんな姉が47という若さで亡くなった。
成城にある自身が営む小さな小料理屋で倒れてから、一ヶ月半の命だった。姉が離婚後、たった一人で築いた良い店だったが、弟の私ではどうしようもなく、店を休まさざるを得なかった。
そのことが、私には余計に悲しかった。
姉の前夫、宏との間に子どもは恵まれなかった。
宏はかつて会社を営んでいたが、不景気のあおりを受け廃業。
その後は定職にもつかず、幸子が生計を立てていた。
そんな宏には「20代後半~30代の頃、愛人がいた」という話を姉から聞いたことがあった。
若くして事業が傾き始めた頃で、夫婦の関係もぎくしゃくしていたのだろう。
でもその関係は長くは続かなかったと記憶しているが、たしかに姉から聞かされた女の名前は、養子の実母のものと一致するような気がする。
しかも、縁組の時期も、その浮気のころと一致するようにも…。
夫婦共同縁組は原則として配偶者と共に、養子縁組をしなくてはならない。
宏が仕向けたとも考えにくいし、その愛人が単独で書類を偽造し行ったのか…?
この際、誰の企みかはどうでもいい。
真面目にコツコツ働いて、大切にしてきた店もろとも、会ったこともない元夫の隠し子に…?
真面目一辺倒で生きてきた姉が、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか…!
行き場のない怒りで肩の震えが止まらなかった。(続く)
【もっとよくわかる!弁護士解説】
ご親族が亡くなり相続が開始した際は、身分関係を確かめるために、改めて古い戸籍を調べることになります。過去の戸籍を確認した結果、これまで知らなかった実子、養子が発覚することは、必ずしも珍しいものではありません。ご自身で調べることのできる戸籍の範囲は限られていますが、弁護士などの専門職の一部は、相続関係の調査のために、職権で戸籍の調査をすることが認められています。
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