法律コラム
父の相続の際の不公平。母の相続の際に考慮することはできるのか【実際にあった相続相談⑦】
弁護士の青山です。
今回は身近なところで起こっている「相続」に関する法律コラムです。
具体的事例をもとに、相続に関わる素朴な疑問に答えてまいります。
Xさんは、父Aさんを亡くしました。相続人は、母Yさん、兄ZさんとXさんの3人です。
父Aさんの遺産としては、自宅である不動産と預金5000万円がありました。
兄Zさんは、遺産は全て自分が取得したいこと、その代わり、母の相続の際にはXさんが母の遺産すべてを取得すればよいと言います。
Xさんはその約束が守られるのであれば、兄Zさんの提案に応じようと考えています。
父Aさんの相続の際の不公平は、母Yさんの相続の際に考慮はしてもらえるのでしょうか。
父の相続と母の相続は「別事件」であるということ
結論から申し上げますと、父の相続の際の不公平を母の相続の際に考慮するとの約束は、必ずしも守られるとはいえません。
理由は父の相続と母の相続は、あくまでも別件として扱われるからです。
上記事例でいえば、母Yさんが亡くなった際に兄Zさんが
「父の相続と母の相続は関係がない。母の遺産分割は法定相続分どおり2分の1ずつ分ける」
などと主張される可能性があります。
仮に、母Yさんが「遺産は全てXに相続させる」旨の遺言書を作成したとしても、兄ZさんからXさんに対して遺留分侵害額請求をすることも考えられます(この場合、兄Zさんは遺産の4分の1を自己の取り分として主張することが可能です)。
では、可能な限り父の相続の際の約束を実現させるためには、どのような手段が考えられるでしょうか。
相続時の約束を実現させるために考えられる3つの手段
①遺産分割協議の取消し
父の「遺産分割協議書」において、母の相続の際に上記約束が実現されることを条件として、父の遺産分割を行うことを記載します。
母の相続の際に約束が実現されないときには、父の遺産分割協議を「解除・錯誤取消し」とすることが考えられます。
②母による遺言書の作成
父の遺産分割協議が成立するまでに、母に「上記遺言書」を作成してもらうか、「死因贈与契約」を締結しておきます。
③遺留分の放棄
上記事例の兄Zさんにおいて遺留分を放棄するための手続をとり、母Yさんの相続の際に「遺留分侵害額請求」をできないようにすることも考えられます。
遺留分権利者は、相続開始前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄することができます(民法1049条1項)。
家庭裁判所は、放棄することが「遺留分権利者の自由意思に基づく」か、「遺留分放棄の理由の合理性や必要性・放棄」と引き換えになされる代償が存在するか等を考慮して許否を判断します。
なお、相続開始後においては、遺留分を放棄するための手続は必要ありません。
留意すべきこと
上記手順に沿うことで、約束を実現させる可能性は高まりますが、けして確実ではないことに留意いただく必要があります。
たとえば、母Yさんが上記遺言書を作成した場合にも、その後、遺言を撤回することは可能です(民法1022条、1023条)。
また、兄Zさんは遺留分放棄の手続をとった後に、「遺留分放棄の申立て」の前提となった事情が変更し、遺留分放棄の状態を維持することが不合理になったとして、「遺留分放棄の許可審判の取消し」を請求することも考えられます。
なお、実際に審判の取消しが認められるハードルは相応に高いといえます(「審判後の事情変更による遺留分放棄許可審判の取り消しは、遺留分の事前放棄制度の趣旨に照らし、遺留分放棄の前提となつた事情が著しく変化し、その結果放棄を維持することが明らかに著しく不当になつた場合に限られるべき」東京家審平成2年2月13日参照)。
遺留分放棄許可の取消しが認められた審判例については改めて取り上げさせていただきます。
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