法律コラム

【ショートストーリー離婚編】慰謝料なんていらない③

【ショートストーリー離婚編】慰謝料なんていらない③

2018.03.27

おはようございます。今週で法律ショートストーリー第9話のファイナルとなります。
結婚25年目で突然訪れた決別の時は、あまりにも淡々と進んで行くようです…。

数日後、弁護士から連絡があった。
 
「通知をお送りしましたところ、和樹さまより連絡がありました。観念されていたのか、なんと、不動産はそのままこちらに下さるそうです。
ただ、ローンの分だけはこちらで引き受けてほしいと。代償金の要求はありませんでした。」
 
 
「だいしょうきん?なんですかそれ?」
 
「3000万円の不動産で、残ローン300万円ですから、価値は2700万円。本来1350万ずつ分けるのが基本ですよね。これを一方が取得するときは、他方はその分、つまり1350万円払わなければなりません。この件でいえば、300万円は慰謝料としても、残りの1050万円をご主人に支払って初めて、本来不動産すべてを貰えるのです。
ご主人はその1050万円を要求されなかった、ということです。」
 
「…そうですか。」
 
和樹のことだ。銀行員なのだからこんな話は十分よくわかって、私に何も言ってこなかったのだろう。
 
「では、ローンはこちらで引き受けます。300万はこちらで用意します。このまま離婚協議書の作成にあたってください。マンションの名義を変更してもらえるように進めてください。」
 
あまりにも淡々と事務的に進めている自分に驚いた。
 
 
「どうして?」
「これまでの25年はなんだったの?」
「これから先どうするつもりなの?」
 
何度も、何度も問いただしたかったことだが、もはやどうでもよくなっていた。
その理由を知ったところで、私の傷が癒えることはない。
一瞬にして25年分の記憶が消え去ってしまったのだから。
残ったのはこのマンションと犬たちだけ。まぁ、それで十分か。
この半年間の苦悩と閉塞感から解き放たれ、少し胸の内がスッキリした。
 
 
お義父さんには報告のため、翌週、老人ホームを訪れた。
「これまで黙っていて御免なさい。突然ですが、和樹さんとは別れることになりました。でも私も身寄りがないので、これまで通りお義父さんのところに会いにきてもいいですか?」
そう告げると、お義父さんは驚きもせず、すっと戸棚から封筒を取り出し私に手渡した。
 
「本当にすまなかったね、和樹のせいであなたを深く傷つけてしまった。心からお詫びします。それでもあなたは僕のところに見舞いに来てくれていた。本当に嬉しかった、感謝するよ。僕はね、あなたのことは本当に素晴らしい、自分の娘だと思っているのだよ。だから少しでも役に立ちたいと思っていてね、よければこれを使ってください。そして、これからも遊びに来ておくれ。」
 
封筒の中には、私名義の通帳が。そして中には300万と記帳されていた。
「え…?」
お義父さんには先に和樹が報告していたのか。それもどうでもいい。
 
唯一、私の25年間を認めてくれる存在が嬉しく、ただただ、涙が溢れて止まらなくなった。
 
 
53歳にして再出発。ゼロからのスタートだけれど、それも悪くない。残りの時間は私の好きなことになんでも挑戦していこう。私の浮上は、これからだ。(終わり)
 
法律用語解説:代償金
本来不動産を等分に按分にすべきときに、一方が全部の持分を取得した場合において、他方に価格の不均衡の調整のために支払われる金銭のこと。
 
 
いかがでしたでしょうか?今回のテーマは熟年離婚でしたが、思わぬ感動もありましたね。
次週は、水谷弁護士からの解説となります!そちらもお楽しみに!

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