法律コラム
緊急事態宣言下の結婚式のキャンセルについて 2021年版【コロナと法律】
4度目の緊急事態宣言の延長も決まり、自粛生活が続いておりますがワクチンの接種率も増加。一定の制限のもとで、変わらず行われるようになってきました。この状況では1年半前の初回の宣言発令時と異なり、もはや「withコロナ時代」。
そのため、以前もお問い合わせの多かった「結婚式」でのキャンセルについてのご相談が、改めて寄せられています。今回は弊所所属の神山卓也弁護士に、解説してもらいました。
リスケしていた結婚式、やっぱり開催できない…キャンセル料は?
結婚式も昨年からリスケしていた矢先に緊急事態宣言も4度目。そして延長…。
現状では地方から親族も集められないので「いよいよキャンセルしたい…」という方が多くなってきました。こんな場合にも、キャンセル料は満額支払わなければならないのでしょうか。
政府命令で開催厳禁の場合など、不可抗力で結婚式事態が開催できなくなった場合は、式場が津波でなくなったのと同じで、一旦成立した結婚式の開催契約自体がなくなる(後発的に履行不能になる)ので、キャンセルの問題ではない=キャンセル料を支払う必要はありません。
(既に支払った分は返金。ただし、アレンジメントなどにかかる当初の申込金は、すでにアレンジメントの業務が済んでいるからとして、返金されない場合はありうるかもしれません。)
しかしながら、リモート併用の結婚式や、人数を調整した結婚式などのプランも数多く準備されている今、式場がなくなったのと同様には考えられないかもしれません。
不可抗力で全額免責とならなくても、規定通りのキャンセル料を支払う必要はなくなることがあります。消費者契約法は、事業者対消費者の契約において、キャンセル料として支払わなければならない金額を、キャンセルによる平均的損害に制限しているからです。
キャンセルによる平均的損害は、すでに式場側でかかったコスト(実費)のほか、キャンセルされなかったら得られただろう利益(逸失利益)を合算して求めるものとされます。
そして、得られたであろう利益というのは、解除時の請求額(見積り)×粗利益×非再販率で求めますから、開催予定日に近くなれば近くなるほど、ほかの客から式場に申し込みがある可能性はゼロに近づき、再販できない可能性が100パーセントに近くなるため、キャンセル料は高くなってしまうのです。
コロナでのキャンセル訴訟が、実際に起きだしている
とはいえ、コロナ禍の中では、キャンセルがあったから再販ができなくなった(他の客に式場を貸せなくなった)のではなく、コロナによってそもそもほかの客に貸すこともまたできなかったでしょう。
この点を踏まえて、キャンセル料を安くする余地があるか否かについて、まだ裁判所の判断は出ていません。
というのも、このような件が裁判例になるには、訴訟が提起されて一審が終わり、これが公開されないといけないので、これまでコロナについてこれといった裁判例はありませんでした。ところが、現在、東京地裁に何件か係属しているという報道が8月末の新聞報道にありました。(こちらの日経新聞の記事を参照)
過去の裁判例としては、挙式予定日の1年以上前にキャンセルをしたという事案で「本件においては平均的な損害として、具体的な金額を見積もることはできない」として、キャンセル料にかかる条項の適用を否定したものがあります(東京地方裁判所平成17年9月9日判例時報1948号96頁)。
また、結婚式のキャンセルではありませんが、これに似た裁判例として、大学のラグビーチームの宿泊予定者の一部に新型インフルエンザ罹患者が出たことを理由として、宿泊前日に予約を取り消した事案がありました。判決自体は、インフルエンザが理由であることを、キャンセル料の減額要素とはしませんでした。
この事案では、損害額が契約書に規定された50人分約96万円全額ではなく平均的損害として約7万円に限られる旨が判示され、大幅に減額されています(東京地裁平成23年11月17日判タ1380号235頁)。
引き続き、今後のコロナによるキャンセル裁判の動向を注視する必要があります。
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