法律コラム

【ショートストーリー離婚編】当事者は誰だ?③

【ショートストーリー離婚編】当事者は誰だ?③

2018.07.14

こんにちは。毎日、信じられないぐらい暑い日が続きますが、皆さまいかがお過ごしですか?
今日は当事務所のオリジナル法律ショートストーリー「当事者は誰だ?」の最終話をお届けします。
妻が家を出ていき、突然、崖っぷちに立たされた雅之。しかし、先に両親という外野同士が大炎上してしまい、当の本人たちはまだ一度も話せぬまま。「自分たちはどうしたいのか」もう一度、自分の人生に立ち返るために、調停の前に話し合いを求めたら…。

数日後、弁護士から連絡があった。
 
「先日、典子さんの弁護士にご連絡致しました。『一度も本人と話さずに調停に臨むより、できれば典子さんときちんとお会いして向き合いたい』と。相手方の弁護士の方も嘆いていらっしゃいました。依頼者の親御さんの意見ばかりで、ご本人の言葉が全く聞き出せていないらしく…。『あなたの人生ですよ。親御さんに任せてばかりいないで、一度お会いして、二人で向き合ってみたらどうですか?』と助言してくれたようなのです。ご年配の弁護士さんでしたが、とても理解がありますよね。典子さんも応じてくれましたよ。」
 
「え?本当ですか?」
 
「えぇ。あちらもあまりにも両親が盛り上がっているので、『典子さんの人生です。ご本人にも少しは考える余地を与えてください!』と一喝したそうですよ(苦笑)」
 
「なんと…!良識ある弁護士さんで良かったです」
 
「そうですね。実情をよくわかっていらっしゃいます。土曜日の午前中にマンションの近くのカフェでお時間をくださるそうです。ただ、相手方の弁護士さん立会いのもとですが、よろしいですか?」
 
「もちろんです。先生、ありがとうございました」
 
そして週末、会いに行った。よく週末に二人でランチに訪れていた馴染みのカフェだ。うまくいってた時期がとても懐かしく思えた。まさか、こんな話し合いのために来るなんて。
 
先に典子と弁護士が奥の席に着いていた。
「どうも、おはようございます。夫の雅之です。先生、今日は典子と話をする場を下さいまして、ありがとうございました。」
 
「いえ、私も長年経験がありますから。家族ばかりが盛り上がって、離婚には至ったとしても、ご本人同士の解決に至らないんですよ。本人不在ではダメなんです。ご本人同士がちゃんと話さないと。」
 
「私の弁護士も同じことを言っていました。私もそのつもりで今日は来ました。典子、まずは君に謝りたい。さみしい思いをさせてしまったこと、そしてそれに気づいてやれなかったこと。仕事を理由になかなか二人で向き合う時間を取らなかったことも。典子の優しさに甘えていたんだと思う。本当に申し訳ないと思っている。すまなかった。」
 
「私もごめんなさい。小さい頃から親に頼ってばかりで、親に色々言われること=自分の意見なんだって思っていたけど、それが違うってことに、先生に会って気づいて。私はどうしたかったんだろう、と真剣に考えるようになったの。確かに、全然帰って来ないし、私も一人でいることが寂しかったから、いつも親を呼び寄せていた。会社の人も相談には乗ってくれていたんだけど、その人のところに身を寄せたわけではないのよ。荷物は全て実家にあるから、その人とは本当に何もないのよ」
 
「そうだったんだ…。君のご両親がそう説明していたから、てっきりその同僚の男のところへ行ったのかと…。違うのか?」
 
「違うわ。荷物を持ち出すときも両親が手伝ってくれたのよ。あなたのことが気に入らないみたい。『こんなに娘をほったらかしにして!』ってずっと怒っていたわ。」
 
「それは本当にすまない。俺も昇格して、部下が増えたことによって、出張も増えたし仕事量が増え過ぎたんだ。会社にもいいように使われている感じがしていたから、半年前ぐらいから転職のエージェントを請け負っている友人に相談していたんだ。心配させると思ったから、典子には決まったら言おうと思っていたんだけど。もっと良い条件でもっとフレキシブルに働ける外資の会社を紹介してくれることになった。今度、ボスに会いに行く。」
 
「そうだったんだ。全然知らなかった。そんなこと一言も相談してくれなかったから…」
 
「ごめん。相談するタイミングもなかったもんな。俺たち」
 
「そうね。私も暇さえあれば両親のところに行ったり来たりしていたから。じっくりあなたのそういう話を聞く時間を取れていなかったわ。」
 
お互い黙り込んでしまった。結婚して5年、俺たちは何をしていたんだろう。
 
そこで年配の弁護士先生が言った。
「どうしますか?このまま予定通り調停を進めるか、もしくは取り下げるか。このまま別居という形をとって、しばらく冷却期間としてお互い自分自身を見つめることも一つの手段ですよ。」
 
「そうですね…。ちょっと一人になって考えたいと思います。一旦、取り下げてもらえますか?」典子がそう言った。
 
「え、いいのか?」
 
「えぇ、自分なりに少し考えてみる。あなたのところに帰る前に、しばらく一人で過ごしてみる。あなたのことと両親のことをまず、整理して考えないと。なので少し時間をください。」
 
「わかった、俺はいつでも待ってる。転職活動のことも進めるし、もっと二人の時間を取れる様にするから。」
 
「ありがとう、また連絡するわ」
 
「よく決断しましたね。典子さん、ご両親は私に任せて、あなたは自分のこれからの人生をゆっくり考えて。」
そう言って、弁護士と典子は席を立った。(終わり)
 
法律用語:調停の申し立て、取り下げ
調停は当事者の意向で申し立て、取り下げることができる。婚姻費用や養育費の調停は取り下げないで不調になると自動的に審判に移行してしまうが、離婚調停は別途訴訟提起を要する。
 
いかがでしたでしょうか?
当事務所で取り扱いのあった事例をもとに、再構成しているオリジナルショートストーリーです。
「より人生に近いところでお力になりたい」という水谷の思いの元、法律だけでは語れない人生模様をお伝えしています。

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